東京大学 都市サステイナビリティ学研究室では、
環境工学に立脚しつつ地域に暮らす人々の視点に立った多彩な研究を進めています。

スマートエコアイランド研究拠点(エネルギー, 食料, 人材, 健康)・エネルギーミックス評価

島嶼地域(佐渡島など)を対象に,エネルギー自立型の社会形成に向けた再生可能エネルギー導入の効果の評価や,人材育成,食料生産などと併せた,持続可能な地域社会のモデルとしての評価を進めています。また、様々な地域を対象に、脱炭素に向けた最適なエネルギーミクスを検討する研究も行っています。

アジアの都市における健康リスク解析・
リスクコミュニケーション

アジアの都市では様々な感染症のリスクが存在します。例えば洪水時の行動によっては糞便汚染された水を摂取する可能性も高くなります。また,感染した人から他の人への二次感染のリスクは手洗いなどの行動によっても大きく影響を受けます。そのような人々の行動に基づいたリスクモデルを構築し,リスクを削減するための方策の評価を行っています。併せて様々なリスクを人々が理解するためのリスクコミュニケーションに関する研究も進めています。

都市における様々な空間での感染リスク評価

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は、我々の社会生活に大きな影響を与えました。COVID-19を含む多くの感染症は人間の行動を変えることによってそのリスクを低減することが可能です。このことは、生活がオンライン中心となったこと、マスク着用が日常となったことからも分かります。 一方で、感染リスクと行動変容のコスト(心理的負担や手間等も含む)、様々な自分や社会活動(通学、買い物、社交、アルバイト、旅行、研究調査など)の便益とのバランスで人は行動を決めています。感染リスク低減の施策を検討する際には、これら各側面を適切に評価することが必要となります。 本研究室では、COVID-19等の感染症の社会におけるリスクに対し、人間の行動を含めたコミュニティや特定空間内における感染モデルをCFDにより構築し、その感染拡大に重要な役割を持っている人間行動への介入施策の効果を評価しています。

都市農園導入の環境面・社会面からの評価

都市における農園は食糧供給の場に加えて,アメニティの向上,生態系の維持など様々な機能を有しています。本研究室ではそのような都市における農園導入の多面的効果の評価をインドネシアやフィリピンを対象に進めています。

また,日本において子供の貧困問題解決と併せて,食品ロス解消の方策としてフードバンクの試みがなされています。しかし提供される食品には乾物類が多いという現状があります。我々の研究室では,市民農園とフードバンクやこども食堂との連携可能性および連携がもたらす持続可能な都市形成への貢献評価も進めています。

持続可能な食

食システムからの温室効果ガス排出量は全人為的温室効果ガス排出量の20~35%を占めており、淡水消費、富栄養化や生物多様性消失への寄与も課題となっています。FAOは2010年に「Sustainable Diet(持続可能な食生活)」を定義づけており, 2019年には「Sustainable Healthy Diet(持続可能で健康な食生活)」をWHOと共に提唱しています。こうした中で、消費者自身が食生活を環境および健康面、動物福祉などの観点から変えていく動きは国際的に高まっています。 近年の都市生活者における新たな食スタイルへのシフトが欧米で顕著なのに対し、日本国内では消費者による意識、認知、行動はいまだ高まっていない状況が見て取れます。一方で市場には、抗生剤の不使用や低環境負荷を謳った畜産品、大豆ミートなどの畜産代替品が提供されるようになってきており、これらのマッチングを今後どのように進めるべきかが課題と考えられます。当研究室ではこれらの課題に対して、食がもたらす環境負荷の算定や、消費者への情報提供、新たな食スタイルへの消費者受容性などの観点から研究を進めています。

気候変動への適応と生活の質(QoL)

人口減少・少子高齢化、グローバル化などの社会変動によって、社会・経済の持続的な発展に不確実性が増しています。気候変動はこれらと相乗的に作用するため、それへの対処は、社会、企業活動、個人、家庭の将来にとって喫緊の課題です。2018年に施行された 「気候変動適応法」では、各都道府県 ・市町村による地域気候変動適応計画の策定が努力義務化されています。気候変動下において各地方自治体が地域住民の生活の質(Quolity of Life: QoL)を守るにあたっては、何が他地域に比して相対的に重要であるか、どのような要素が気候変動に対して脆弱であるのかを包括的に知った上で対策を立てる必要があります。本研究室では地域住民の視点に立ち,健康や快適性,地域産業や観光業,文化などへの影響も含め,気候変動がQoLに与える影響を評価すると共に,適応策の検討・評価を進めています。

環境配慮行動の促進と環境教育マテリアルの開発

温室効果ガス削減に向けては民生部門からの排出削減が必須です。家庭における様々な消費行動に伴い温室効果ガスが排出する仕組みを理解し,環境配慮行動へと繋げていくための道筋を探る研究を進めています。環境配慮に向けた行動を規定する心理的規定因をモデル評価により明らかにする研究や,具体的な各個別行動がもたらす環境負荷のライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment: LCA)による算定,環境配慮行動促進に向けた情報提供法の検討,ライフサイクル思考(Life Cycle Thinking: LCT)醸成のための教材開発・試行といった研究を進めています。

環境施策の多面的評価

環境問題の解決のためには様々なシナリオを検討する必要があります。その際各シナリオにおいて,ライフサイクル全体での環境負荷はどうなるのか,環境負荷としても温室効果ガスだけでなく,資源消費や大気汚染物質の放出,水質汚濁など様々な要素があります。また環境面だけでなく,社会面,経済面での影響や,施策の各ステイクホルダーからの受容性などを総合的に評価することが必要となります。我々の研究室ではそのような環境施策・環境技術の多面的評価を進めています。これまでの対象分野には廃棄物管理,大気汚染施策,再生可能エネルギー導入,親水空間の水質改善施策,分散型排水処理の導入,シェアリングサービスなど様々なものがあります。